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おりひめ28 [おりひめ]

再度登場 鉄人M先生

 山と薬

普段なにげなく使っている薬。風邪には風邪薬、頭痛には頭痛薬をと、ほぼ無意識の内に薬を選びながら飲んでいる。
当たり前であるが、その薬がなぜ風邪や頭痛に効くのか、どのように効いているのか。確認しながら飲んでいる人はどのくらいいるだろうか。

われわれ岳人にとって欠かすことのできない薬。その効き方について今回は考えてみたいと思う。(例によって Tarzan を参考にした)

われわれが使っている薬には飲み薬、張り薬、塗り薬など様々なものがある。
また、同じ飲み薬にも錠剤・丸薬・カプセルなどいくつかの夕イプがある。なぜ薬の形状が種々雑多なのか。
たとえば飲み薬。液体のものがいちばん早く効き目を現す。次が粉薬、丸薬やカプセルがその次で、錠剤は効き目が現れるまでにいちばん時間がかかる。
溶けやすいものほど体内に吸収されやすいということである。

けれども風邪を早く直したいときには液体のものがよいだろうと早合点してはいけない。
大部分の飲み薬は小腸で体内に吸収されるが、そこに到達するまでに、薬は胃酸などの消化液のなかをくぐる。
その影響を受け易い成分を持つ薬は液体のかたちで飲むと効果を現す前に分解されてしまうというわけである。
逆に、クスリの成分が、消化器官を荒らすものもあり、これも、早く溶けすぎないように工夫する必要がある。
小腸から吸収されたクスリは、門脈という血管を通って肝臓へと運ばれる。肝臓は体内に入った毒物を処理する働きがある。
体のためにと飲んだクスリも、肝臓にとっては一種の毒物である。クスリは、今度はここで化学変化を受けて最終的には分解されてしまう。ただし肝臓の処理能力には限界がある。その限界を超えた分のクスリの成分が、肝臓から出る血液の流れに乗って全身に運ばれることになる。
その結果必要とされている場所にクスリの成分が達して、そこではじめてクスリの効果が現れる。

飲んだクスリがそのまま、目的の場所に行き渡るというわけではないのである。どのタイミングで溶ければ効率よく、しかも体に負担をかけずに吸収されるか、薬のかたちは成分や目的に合わせて綿密に計算されているのである。

では、そもそもなぜ薬は効くのだろうか、冒頭にも書いたが風邪薬は風邪に効くということはわかっているが、なぜ効くのかはあまり知られていない。
素朴であり根本的な疑問である。しかし、これを知っているといないでは大きな違いがある。
特に医者などいない山においては自分で判断をして薬を飲むしかないのである。
病状を正確に判断し正しい薬の服用をしなければならないのである。(以下は、雑誌 Tarzan による)

クスリの効くメカニズムはいくつかの夕イプに分けられる。最も単純なのが、胃酸過多の場合に中和剤を飲むというケース。
これは胃酸をクスリによって化学的に中和してしまう。それからビ夕ミンなどのように、細胞の中に取り入れられたりして、何らかの効果を及ぼすもの。
さらに細胞や組織の表面にあるレセプターに働きかけて、症状を抑えるという夕イプの効きかたもある。

ある物質が、細胞などの表面にあるレセプ夕ー(受容体、鍵穴みたいなもの)に入ったときに症状が出る場合、その原因物質と非常によく似たかたちの物質が、クスリになることがある。
クスリがレセプ夕ーにぴたりと嵌ってしまい、原因物質がレセプ夕ーに入り症状を引き起こすのを妨害するのである。

抗生物質のように、病原菌を退治するクスリは別として、普通のクスリには病気の原因そのものを取り去る効果はない。
クスリはほとんどの場合、病気を治す上での補助的な役割を果たすにすぎないのだ。
熱を下げたり、頭痛を取り去ったり、吐き気を止めたり。クスリのもつさまざまな効能は、あくまで表面的な症状を抑えるためのもの。
病気を治す主体は、本人の自然治癒力なのである。異物である病気の原因と戦う白血球や、体のバランスを保つホメオス夕シスという能力が、病気という状態から体を回復させる。
クスリはその過程の不快な症状を抑え、体が病気と戦うのを支援するためのものである。

このように、薬のほとんどが対症療法にすぎないということであるが、薬の効き方を知らずに飲むことの怖さがよくわかる。もっともプラシーボ現象というおもしろいこともある。
外見上はクスリとまったく見分けのつかないただのメリケン粉を、頭痛薬と偽って患者に飲ませると 6 割以上の人が直ってしまうと言われている。これをプラシーボ現象というが、時には無知も役にたつということか?

ところで、われわれが山でよく使う薬に解熱剤がある、山での発熱は命取りになりかねないので必携薬ではあるが、使用には注意が必要である。これもまたメカニズムを知らずにいる人が多いのではないだろうか。

そもそも何故熱がでるのか、解熱剤はどのように作用するのか。次はこのことについて説明しよう。(以下再びTarzan による)

人間を含む噛乳類と鳥類は、恒温動物、あるいは温血動物と呼ばれる。これに対して爬虫類や両生類は変温動物とか冷血動物と呼ばれる。
何故恒温なのかと言うと、それは外界の温度にかかわらず、ある一定の体温を維持するためのシステムを体の中にもっているからだ。この体内エアコンを制御する中心は脳の視床下部にある、体温調節中枢と呼ばれる場所だ。
体温中枢では、神経を介して皮膚の表面や血液の温度を常にモニ夕ーしている。
それぞれの場所に温度計の働きをする神経末端があるのだ。そこからの情報で、たとえば体温が下がると、体の各部に体温をあげるようにと言う指令が下される。
皮膚を緊張させ、汗腺を閉じ体表の毛細血管を収縮させて熱が外に漏れないようにする。同時に筋肉や肝臓で、燃料となるブドウ糖やグリコーゲンをどんどん燃やして熱をだす。逆に体温が上がっているときは、汗腺を開き汗をだし、体表の毛細血管を開いて、血液をできるだけ外気近くに送り込む。
体表の汗の気化熱で、血液を冷やし、体温を下げるのだ。
体温調節中枢は、いわばサーモスタットの役割をはたしている。熱がでるというのは、このサーモスタットの設定温度が、何らかの理由で平常よりも高い温度に切り替えられてしまった状態だ。
人間の場合なら三十六、五度前後が平常の設定値だけれど、それがたとえば三十八度にされてしまうのである。
三十八度に設定温度が切り替わると、体温中枢は三十六、五度という体温では低すぎると判断する。それで体は寒気を感じ、ぶるぶる震え、熱を発生させ、どんどん体温をあげていく。

こうして熱が出るのだ。それでは何が体温中枢の設定温度を替えてしまうのか。
風邪などの病原菌から出る何らかの物質によって、体温調節中枢の設定温度が上がる、ということはかなり昔からわかっていた。
これは、発熱物質と呼ばれるが、その詳しい働きについて明らかにしたのがベイン博士だ。
彼の学説によれば病原菌の発熱物質が直接、体温調節中枢に働くわけではない。
その病原菌と戦う体内の白血球が病原菌の発熱物質に刺激されて、白血球自身が別の発熱物質を作る。これが直接体温調節中枢に働きかけて、設定温度をあげているのだ。

白血球が作る発熱物質はプロス夕グランジンという情報伝達物質の一種である。
なぜ、体を守るはずの白血球から、熱を出せという要請がだされるのか。体温が高い方が白血球が活動しやすくなるからだとか、病原菌によっては熱が上がるだけで死んでしまう者がいるからだとか、様々な説明がなされいるが、確かなことはわかっていない。

ただ仮にいくら白血球には有利な状態だとしても、あまりに高い体温が続くと、体そのものが弱ってしまうということも事実である。そこで使われるのがアスピリンなどの解熱剤だ。
アスピリンには、白血球がプ口ス夕グランジンを作るのを阻害する働きがあるのだ。
プ口ス夕グランジンがなくなれば、体温調節中枢の設定温度はもとの平常体温に戻される。
それで熱が下がるというわけなのである。したがって解熱剤は安易に使うべきではない。熱が下がったからといって、白血球と病原菌の戦いが終わったわけではない。
薬の働きで熱を抑え体力を回復し、十分な栄養を補給できるようにしたら、安静を保ち熱の本当の原因である病原菌を白血球がしっかり退治してくれるのをじっくりと待つ。
それが解熱剤の正しい使い方なのである。薬がどのように体内に吸収されどのように作用するかの概要が理解していただけたであろうか。

いつも使用上の注意をよく読んで服用している人は別として、やみくもに薬を飲んでいた人にはある程度参考になったのではないだろうか。
私自身もこの記事を読むまでは風邪で熱がでるのは白血球が病原菌と戦っているためにでるものだとばかり思っていたので解熱剤は多く飲めばいいんだと危険な認識でいた。

薬はそれぞれ綿密に計算されて作られているので服用法をまちがえれば薬になるどころか、毒になってしまうものであるだけに、服用には正しい知識と注意が必要であろう。

おりひめ第28号より転載

M先生ご専門は何なんでしょう?
その博識には舌を巻きます・・・

 


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