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おりひめ24-2 [おりひめ]

世に言うバブル景気の頃のお話です
当時の状況を窺い知ることができるR先生の貴重なレポートです 

 

開発と自然保護ー巻機山

巻機山をめぐる観光開発計画が報道され、関心を集めているのは周知のとうりである。
この山をめぐる開発計画は、以前から何回か持ちあがっていた。

高度経済成長の末期、「列島改造論」で全国各地で観光、リゾート開発が計画され、土地投機がブームとなっていた頃、巻機山のスキー場計画が公表された。
黒川シャトーによるスキー場建設である。その後昭和四十八年秋にはじまった石油危機により高度成長は終りを告げ、安い石油に依存していた日本経済は極度の不況になり「列島改造論」は御破算になった。
当然、この巻機山のスキー場開発も計画のままに終った。

その後いくつかの話はあったようであるが、計画までには至らなかった。昭和六十一年になって大手資本が建設業者と提携して塩沢町に開発を申し入れ、具体的に動き出したのが今回の計画である。

その頃から地元の清水集落で話を聞き、山にロープーウェーがかかる大規模な開発計画を知った。
他校の顧問から「東高校の山荘はゲレンデの真中になる」と言われたりした。

このような大規模開発には多くの問題を伴う。
地元の清水集落の過疎化対策、地区の振興に期待がかかり、一方ではスキー場造成による自然破壊である。

最近の動向を追ってみると、昭和六十三年二月十日に地元が町当局に開発同意書を提出した。
地元とは清水森林生産組合を中心とする巻機山開発委員会であり、同森林生産組合は巻機山域の大半を所有している。
集落の過疎脱出のため、スキー場を核とした観光開発に同意し促進の方向を打ち出した。

但し地元には
一部で開発反対の声もある。この計画が持ちあがって以来、自然保護の立場から開発反対の意見も多く、巻機山の自然を後世に残そうと登山者らが集まって、同年二月二十八日「巻機山を守る会」の設立総会を開催した。
当日は六日町に県内はじめ東京や関東から百人が集まり、この山の自然を子孫に残そうという設立趣意書や規約、役員を決めた。翌二十九日、同会は趣意書や要望書を県、町当局と六日町営林署に提出し協力を求めた。
夏になって開発業者の地元説明会が開かれた。

六月二十三日夜、会場の旧清水分校に地元住民と塩沢町関係者が集まった。開発計画の業者は大手資本の住友不動産(本社・東京、資本金七百八十億円)と大手建設業者の大林組(本店・大阪)である。
開発計画によれば、開発面積は百五十ha 、巻機山(一九六七 m )の七合目の一七三〇 m まで八人乗りのコンドラを架けて、他に山麓に四人乗り七基、三人乗り十六基リフトを架ける。

スキーセンターやレストハウスのほか、二百室(八百人収容)のホテルを建設、駐車場は四千台を収容。
スキー場は昭和六十五年のシーズンからオープンの予定。(昭和六十三年六月二十五日、新潟日報)
スキー場が建設されるのは巻機山の尾根道と威守松山麓一帯なのである。

要するに山荘からみえる斜面がほぼ全部ゲレンデとなり、西にひろがる緩い斜面にホテル、駐車場、テニスやサッカー場が出来る。業者の説明通りとすると、ゲレンデの面積はあの有名な苗場スキー場(百十九ha)を上回り、七合目からのコースは四・四km と長くゴンドラ終点との標高差は千百六十m は国内最大で、まさに広さ、長さ、高度差とも全国有数の大スキー場なのである。この建設事業費が約二百億円、スキー客は初年度で三十万人、次年度から六十~九十万人を見込んでいる。

開発業者側は一年近く調査をやり、開発のめどがつき’日本有数のスキー場"にしたいという。はたして一年位の現地調査で巻機山の自然が判るのだろうか。

魚沼でも麓の清水は豪雪で知られる。そこからニセ巻機の下までゲレンデにしようというのである。
雪崩の危険はないのか。割引沢や米子沢でない尾根筋だから出ないように見えるが、厳冬期には表層雪崩が発生すると聞く。このニ年ほど暖冬続きで少雪時のデータでは当てにならない。
一晩で一m も積る豪雪を知っているのだろうか。またコースの下部にあたる井戸の壁は、あの急斜面に大木がなく灌木の疎林であることが雪崩を物語たっている。

実際、数年前の春山合宿で巻機登山の帰路、スキーで壁の斜面を横切っただけで足元から表層雪崩をおこし冷汗をかいたことがある。計画では雪崩対策として、スキーコースをニセ巻機(八合目)から下の登山道沿いの尾根に造成し、森林の伐採を最少限に留めて、伐採する場合でも樹木のある程度の一局さ(どの程度かは不明)は残すという。

この程度の対策で急斜面の雪崩を防止できると考えているのだろうか。切株を残せば少雪時や目王となる春スキーでは雪上に切株が頭を出して危険でないのか。
無雪期の尾根道はブナ林が幅広く伐り払われ、足元には切株がひろがる中を登ることになる。
新緑や紅葉に染まって歩いた道は望むべくもない。

巻機山の地質はグリーンタフといわれる火成岩が基盤岩で、この岩盤の上に赤土と岩石が混じった地層が被い、表土は黒い腐植土である。薄い表土がはがれると、雨水によって下の赤土層は深く削られる。降雨は岩のすきまに流れこむ。頂上付近やニセ巻機の急登でみられる、あの深くえぐられた溝である。
もっとも頂上周辺は県やボランティアの尽力で修復され、木道や階段も造られた。
下の基盤も硬くしまった岩盤ではない。むしろ脆さが目立つ。
割引沢、ヌクビ沢源頭の赤茶けた脆い壁、天狗岩直下のはがれ落ちた岩石屑を見ればよく判る。
割引沢、米子沢の下流は巨大な岩が沢を埋めている。

このような地質の山に大型建設機械を入れ、山腹に工事用道路を造り、ゲレンデ造成のため表土を削ればどうなるのか。
浸み込んだ雨や雪解け水により土石流がおこる可能性がある。基盤がしっかりしていれば砂防ダムは必要ないが、地元の話では今後十数年かけて巨費を投じて建設省が砂防堰堤を作る。米子沢川(割引沢と米子沢合流点より下流)に七ケ所、米子沢には九ケ所を建設する計画である。
スキー場開発のための堰堤か否かは判らぬが、とにかく砂防工事が必要な山域なのである。

この開発計画のポイントは何か。新幹線、高速道路沿いに残された最後の大規模スキー場適地で、暖冬少雪でも雪不足の悩みはない。
この"売物"が山にかかるゴンドラである。最初の計画では下からニセ巻機の頂上まで架ける予定であったが、山頂保全法により七合目(千七百三十 m )が山頂駅となる。地形図でみるとニセ巻機急登の最後の辺である。
上越国境の稜線まで一気に運んでくれるゴンドラであり、スキー客や登山客にとってこれ程便利なものはない。

山で"楽"になれば人が集まる。多くのスキー客が集まれば色々な問題がおこってくる。
ゴンドラを降りると稜線が目の前にひろがる。四時間も汗をかいて登った稜線に、八合目の急登を一汗かけばすぐに立てる。
ニセ巻機から頂上にかけては緩やかなスロープが連なる。二千m のゲレンデは粉雪の山スキーの天国だ。
山頂から麓までの長いコースは、適度な斜度と雄大な風景でスキーヤーを魅了する。豊富な残雪で春スキーの時期も長い。上越沿線の’最後"のスキー場かも知れない。

だが厳冬期の天候を考慮しているのだろうか、降り止まぬ豪雪、目もあけられぬ吹雪、稜線部の立っていられない強風とアイスバーン。
天候不順や急変は上越国境の山では当り前である。スキー客の遭難が心配される。また春スキーでは、ゲレンデを固めるためにまく塩が植生に影響を与え、頂上周辺の湿地は姿を消すであろう。
悪天候の際にスキー客の行動を規制するとしても不可能であり、各地のスキー場で遭難騒ぎがおこっている。
高度成長期に大規模スキー場が開発され、ロープウェーや。コンドラが山に架かり、ゲレンデは山麓から山にまで拡大した。
麓のゲレンデしか知らないスキー客も簡単に山に運ばれ、山スキーの領域に入ってしまう。
巻機の、コンドラ終点駅に降りるとそこはスキー場ではなく「山」なのである。
計画通りに数十万のスキー客がやってくれば、遭難は予想される。現在でも巻機山では早春からの春スキーで遭難があり、死亡事故もおこっている。

このような大規模スキー場開発計画は巻機山に限ったことではなく・県内にも地域開発や過疎地振興を核とする開発計画がある。最大規模の計画は「マイ・ライフ・リゾート新潟」構想で、余暇の有効利用から昭和六十二年に成立した「リゾート法」を背景にして、全国各地でこの法の指定を受けようと活発化しているリゾート開発である。
該当地域は南、北、中魚沼、十日町、東頸城の十四市町村、重点整備地区は八ケ所で総面積は二万三千ha 、今後十年間で民間、公共資本が約五千億円が投下される壮大な開発プロジェクトである。
開発の主目的は雪を最大限に活用した雪国リゾート地の形成で、スキー場、ゴルフ場をはじめとする各種スポーッ施設の造成、観光農園、牧場、ホテル、温泉と多方面の行楽、観光施設を建設する。
八ケ所の重点整備地区でスキー場建設計画がないのは川口 ・堀之内地区だけで、他は規模は様々だが建設または拡張計画がある。

主な計画は魚沼丘陵地区の国際的交歓型スキーリゾート地としての上越国際スキー場拡張、当間高原の二つのスキー場新設、南越後地区のマウントパーク津南スキー場拡張、大手資本の計画としては越後三山山麓の国土計画による阿寺山スキー場があがっている。
詳細はまだ決定してないようだが、この開発プロジェクトは全国六ケ所の指定地域の一つで、国の低利融資を受ける有利な条件で巨額な資金が投入されてリゾート開発が動き出そうとしている。

これに次ぐ大規模開発計画は、「奥只見レクリエーション都市」整備構想である。
この計画は南、北魚沼の七町村にまたがる奥只見一帯をおよそ二十年かけて観光開発しようと気の長い計画である。
この構想は昭和四十五年に建設省の公園事業の一環として立案された。目的は大都市圏や地方都市からのレクリエーション需要を充足するため、スポーツ施設、子供の遊び場などを中心に、休養宿泊施設や自然保全
地区を設けるというもので、現在で言うリゾート開発である。

北魚沼では昭和五十四年に同盟会が結成され、昭和五十九年に「奥只見レクリェーション地域整備構想」として計画がまとめられた。事業主体は県で、地元町村は計画立案に参加し、費用の五十%は国が負担するものである。

この長期計画は昭和六十年から動き出し、各地区ともまだ計画立案の段階であったり、ようやく用地買収が始まる地区もある状態のなかで、最も整備が進んでいるのが浅草岳地域である。

この地域では二つの地区が開発される。破間川ダムの五味沢地区では、すでにテニスコートや体験実習館などの一部の施設が完成して駐車場や遊歩道も工事に入っている。メーンとなるのは当然ながら浅草岳山域で、現地調査が行われている。浅草岳の山麓には国民宿舎の「浅草山荘」が営業している。その地域を中心に山の北西部の原生林のブナ林は昭和四十年代までに見事に伐採されて、そこに。ゴルフ場、キャンプ場、ホテル、そして大スキー場が計画されている。
計画の概要では千二百ha の面積に約三百億円が投資されて、巻機山と同様に山麓から浅草岳山頂にゴンドラが架かる大規模スキー場が造成されると聞く。

まだ計画の段階で民間企業が現地調査中であるが、山麓から集落が離れているためか、巻機と同様に考えられる自然破壊を心配する声を余り聞かない。
山麓の五味沢の集落は、過疎化が進み山の宿が一軒あるだけで、かつて盛んに木材を積み出していた長岡営林署の現業所も廃止され、森林軌道の跡が残るのみである。

浅草岳(一五八六 m )は守門岳と同じコニーデ型の休火山である。山頂から北、西斜面はゆるやかな斜面が広がり、春スキーには快適な滑りが楽しめる。四月の日曜日にはへリコプターでスキー客を山頂まで運んでいる。北西部のネズモチ平は森林が伐採されてしまい見事なブナ林は姿を消し、トラックが往復した林道が山腹を削っていろ。
この広大な斜面にコンドラを架け、リフトを作ろうという計画らしい。完成して多くのスキー客が入れば、浅草岳頂上付近の湿原は荒されていづれ裸地になるのは明らかである。
美しい原生林の伐採だけでも問題があるのに、山腹を削る造成工事は痛々しい限りである。

このような大規模なスキー場計画は何も県内に限ったことではなく、高度
経済成長の昭和四十年代には、全国各地で観光ブームにのり、スキー場が建設された。
だが、その後の石油危機による不況もあるが、小規模で特色のないゲレンデや、スキー以外にこれといった取柄のないスキー場のなかには倒産騒ぎがおこっている。
そのようなスキー場を大手資本が買い取り、大きく衣更えをして成功した北海道の富良野スキー場のような例もあるが、うまくいっている例は少ないようだ。

三年程前から問題となっているのは、青森県の八甲田山のロープウェー計画である。
八甲田山は十和田八幡平国立公園に属し、その中心部は規制が厳しい「特別保護地区」である。
その八甲田山域の大岳(一五八五 m )の山頂にまたがって、山域を横断する大ロープウェー計画がもち上った。
立案したのは青森県で、昭和五十八年から調査を開始、県予算もついている。県が国立公園の真中に長大なゴンドラを架ける必要性があるのだろうか。

計画を推進している県観光課の話では二点ある。青森県は雪国でありながらスキー場が少なく、県内のスキー客が隣県に出かける。
次に、八甲田山域の観光資源が夏場中心で、冬季も含めた通年観光をはかり、地域の活性化を期待する、というものである。

八甲田山地は国立公園に指定されてから五十年すぎ、自然保護にはとくに力を入れてきた。戦後の観光ブームのなかで大衆化はさけられず、古くからの温泉地の酸ケ湯近くにロープウェーを建設した。
特別保護地区の直前の標高千三百m まで百一人乗りの大型ゴンドラが架っている。
団体客や学校登山などで終点駅周囲の高山植物は消え、崩壊も進んでいるという。

これを上廻る大規模なロープウェーを建設し、国立公園の特別保護地区を横断する計画なのである。
県内の巻機山、浅草岳は国定公園であるが、八甲田山は有数の国立公園の核心部である。このような自然保護を無視した計画に監督官庁の環境庁はどう考えているのか、八甲田の計画が実現にむけて動き出した頃(昭和六十一年二月)、環境庁は青森県から何の連絡を受けていないので、公式な発言はさけていたが、計画が本格化するなかで自然保護の立場から慎重な姿勢をとっている。

また国立公園の特別保護地区では、このような大規模ロープウェー計画が実現した例は今までないことは確かである。
現在まで国立公園にゴンドラが架った例はいくつかあるが、山頂や特別保護地区はさけている。
白馬山域の八方尾根、西穂高岳、中央アルプスの宝剣岳にはゴンドラやロープウェーが建設され、多くの観光客を山頂や稜線が望める地点まで労せずに運び上げている。
そのため自然が崩壊されているのは事実で、深刻化している。

青森県は山スキーのメッカ、八甲田山を全山ゲレンデ化しようとしている。県民の税金を投資して貴重な八甲田の自然を破壊していいのだろうか。県は立ち入り禁止区域を設定して、徹底した観光コースを整備すれば、懸念される自然破壊は防げるというが、はたしてうまく行くだろうか。
ロープウェーが架かればリフトもできて、全山がスキー場となる例は、北海道のニセコアンヌプリや山形県の蔵王をみれは明らかである。

美しい自然が残っている巻機山、その登山口の清水は昭和四十年代、人口は百七十人をこえて小学校の分校は三十人前後の児童でにぎわっていた。
成長した子供達は清水を離れ、現在、二十二世帯、九十一人に減少した。八十年余の歴史のある分校も閉校した。過疎脱却の切り札としてスキー場の建設も一手段であろう。
開発計画には部落の大半が賛成というが、自然破壊を懸念されるのも事実である。大手企業の開発に全面依存して、この先、不安がないのだろうか。若者が働く職場ができるか、否か。
地元の利益をどの程度考慮してくれるのか。山一つ越えた湯沢のようなマンションが建つのだろうか・・・ 。

現在、県内には前出の大型開発プ口ジェクトの他に、スキー場建設計画が目白押しに企画されている。上越新幹線と高速道路で首都圏と短時間で結
ばれ、多くのリゾート、観光客を当て込んでいるのだが、その地元の地域振興に結びつくかどうかは疑問視される面がなくはない。
地元の人達の生き方に口をはさむわけではないが、広い視野に立って、将来性を見通した開発計画を決めてほしい。


おりひめ第24号より転載
少子高齢化とレジャーの多様化による若者のスキー離れで
どこのスキー場も経営は青色吐息・・・
湯沢町の現状を見るまでもなく
巻機はこれで良かったんだと思います。

「雲天」の【おかあちゃん】に
 合掌・・・


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