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おりひめ25-2 [おりひめ]

H先生最後の寄稿文です(一部割愛) 

昭和最後の夏山合宿

昭和六十三年七月三十一日、十一時五十四分。顧問三名、三男(3年男子・・・以下同)二名、三女三名、二男五名、二女十一名、一男一名、一女八名、というなんと三十三名にのぼる大部隊が大糸線の小さな駅、北小谷駅へ降り立ったのである。

この駅では未だかつてない数の登山者の降車ではなかったろうか。
駅前で昼食を食べ、写真を撮ったり、案内板を見たりして、これからの入山の気構えが徐々に盛り上がってくる。

十二時三十五分出発。姫川の橋を渡り駅裏の車道をだらだら歩く。
沢に沿った車道が第五休憩あたりからやや登りになる。民家があるのでまだ六百米の高さしかない。夏の真盛り、しかも午後二時とくれば蒸し暑く最悪のコンディションである。
はたせるかな第六休憩後歩き出して間もなく、三時二十分。一女の三人が遅れだした。
はじめて大きい荷を背負っての登りはきついはずだ。水と石油と電燈(大型)を取り出し三女に分配する。

これから先が思いやられる。それでも四時四十二分に車道の終わる南股橋に到着する。ここで三男を先発隊として出す。
目的は水場に隣接した良いテソト場捜しである。橋を渡るとすぐジクザクの急登になる。
北斜面なので薄暗いが日陰で涼しい。ようやく尾根へ出た。右下に北股沢。左下に南股沢の水の音が両側から聞こえてくる。五時二十分、先発が空身で戻って来る。その状況報告によると登山口にテントが二張り程張れるし、二十米位下りると水場もあると云う。

広さに難(テント六張りも張れるかどうか)があるがまあ良しとしなければなるまい。
先発の目的は彼等にはテント場選定と云ってあるが、これは名目なのであって真の目的は空身で戻って来て一女のバテ荷を持ってくれることにあったのである。

それでも男子は喜んで?一女の荷物をボッカ(荷役)して戻ってくれた。
風吹登山口着、五時五十分であった。幕営・炊事・食事は電燈が必要になった。
月夜で明るい。

八月一日、快晴。七時、風吹登山口出発。狭い尾根の急登が続く。左に石楠花沢、右下にクセエ沢の水音がする。小さいピークを越えて右下をみるとなんと沢が百米余にわたって真黄色に染まっている。そこから流化水素の臭気が立ち登り鼻を突く。
名のとおりクセエ沢だ。顧問三人はカメラとビデオを構える。シャッターを切りカメラをしまって本隊に追いつくと、休憩中であった。
一女三人程(昨日とは異なる)が。バテ気味だと云う。
「では、持って貰いたい荷物を少し出して。」と云うと、これもあれもと半分も出しそうになるので慌てて少しにしろとたしなめる。
一昨年の一女の頑張りとは随分違うような気がする。休憩後、リーダーの「出発。」の掛け声がかかるや否や、タイミングよく「チョット待った。」が
かかった。
これから【チョットマッタコール】が流行するようになった最初である。

高度を稼ぎながらしかもゆっくりと、四十分で休憩をとるペースで進むが次第に休憩時間が十分から十五分、二十分と長くなる。そしてリーダーの「出発!」で間髪を入れず「チョットマッタ。」がかかり五分延長してしまう。

ようやく周囲の植生がオオシラビソやヒノキの針葉樹が多くなり、「風吹大池近し!」と思わせるようになって来た。
十二時十五分。待ちに待った風吹山荘着である。昼食にする。
外人一人と、東京から来たと云う学生七人と出会う。風吹大池からは長野国体の時の北信越大会等できているので何か懐かしさのある風景であった。大池を背にした登りは急であるが針葉樹の日陰で高度も一五〇〇 m を越え涼しい。
風吹天狗原は素晴らしく、快適な草原であった。快晴の青空は白っぽい。周辺のオオシラビソは青黒く、その中に光に充ちた草原がひろびろと広がりを見せ登山道が続く。
思わず” 休憩” と叫ぶ。そういわずにはいられなかった。
一九四四米。フスブリ山手前。休憩。

 14:45 分出発。
だらだらの緩い登りだ。三十人程の中学生の集団登山と出会う。引率者の少なさに驚く。
いよいよ千国揚尾根だ。二つのピークを越え、ようやく二千米を突破する。乗鞍岳手前の天狗原への最後の急登になる。
道端に黒いトカゲのようなものが這っているのをみて二女のひよちゃんか誰かがすっとんきょうな悲鳴を揚げる。
急いで行って手に取ってみるとそれはクロサンショウウオだった。そういえば直ぐ近くに水溜りがあり、卵塊があったので産卵が終わって寝ぐらへ帰るところなのだろう、そっと離してやる。

15:12 分。天狗原の見える下り尾根になる。
山ノ神と栂池から来る道の出会いへ着いたのは十六時三十分を回ってからだった。
東高登山隊の行動は驚異に値する程緩慢になっている。もう限界にきている。今日予定の白馬大池までは乗鞍岳を越えなければならない。顧問三人で相談し、この天狗原で幕営することにきめる。
よい泊地を捜さなくてはならない。
幸い一番奥に沢水を見つけ、又沢の合流点でやや乾いた泥の広場を見つけ、そこへ三張り。傍らの草地の斜面に三張り、テントを張り終わり、タ食はやはり暗くなってしまった。
血に飢えた蚊の集団の襲撃に悩まされる。そして翌日起きて真っ青。出る筈がないと思った水が下の広場いっばい。三男、二男がテント撤収に大騒ぎであった。

八月二日。白馬大池までの二時間を取り返えすべく、早く出発する。とはいいながら結局 5:50分、出発。やっばりチョットマッ夕コールがかかる。この頃になると興味半分に使うようになる。

乗鞍岳の緩やかな山頂へ出ると紺碧の水を満々と堪えた白馬大池が見えた。
黒い大きな火山岩のごろごろした道をたどって池を半周し、白馬大池山荘前にたどり着く。
ここで休憩しながら、一二年生と顧問でこれから予定通り進むか蓮華温泉へ下るか相談する。
R顧問は一女の状態ではとても無理だから蓮華温泉へ下山することを主張する。私は一女は荷物を軽くすれば、否二人分の荷物を全員で分担すれば人数が多くいるので一人の負担が少ないから続行可能を主張する。
三男も勿論荷物が増えても行きたいと云う。真島顧問もそれに傾き、予定通り小蓮華山に向かって出発と決まる。
もう一つ良い条件がある。それは二千五百米を越えると真夏でも雪が残り冷涼感があり、あまり疲労しない。それに視界が開け、縦走路の展望が何よりも心を夢中にさせてくれる。
しかも行程をゆったり取ってあるので急ぐ必要はない。

蓮華温泉ー白馬大池ー小蓮華山ー白馬岳ー大雪渓コースは直江津高校時代学校登山で毎年来ていたし、東高でも二回やっているのでここは十数回目の足跡をたどることになる。
雷鳥坂のあそこにコマクサがあり、三回目の曲がり角のハイマツの下からキ。ハナシャクナゲが咲きはじめ、七回目の角の石の左にムシトリスミレがあることまでわかる。

舟越ノ頭から稜線に出るとヤマハハコの郡落がある。ここまでくるといっきに夏山の展望が開け、小蓮華山の鉄の剣が指呼の間に見える。
小蓮華山で大休止。振り返ると白馬大池。栂池や頚城山郡、菅平の根子岳、四阿山浅間山、八ケ岳連峰、そして明日行く白馬岳、雪倉岳、朝日岳の連山と大パノラマが展開する。
山頂の鉄剣を背に記念撮影。昼食をとる。ここから三国境までは稜線上の散歩である。

14:00 三国境着。
ここにザックをデポし、私を除いて全員白馬岳まで往復する。少なくとも二時間はかかるのでその間私は自由である。
白馬岳は何度も登ったので「今更行ってもしょうがない。」と思ったのともう一つ、私にはもっと重要な目的があった。
それは、自分だけの時間をもつ必要があった。
その間に高山植物の植生と高山蝶の習性の観察が出来るからであった。
この二時間の空白は皆は頂上の石の展望板にしがみついて寒さにふるえていたであろうし、私は思う存分、コマクサやウルップソウ、チソグルマ、ヨツバシオガマ、チシマリンドウに接し、スケッチしたり、夕カネヒカゲ、クジャクチョウ、ミセマモソキチョウを観察することができた。
でも道からそれて高山植物帯に足を踏み入れていたので上の稜線を絶えず気にしていたことは確かである。
それも早めに切り上げ三国境から少し越中側へ入った雪渓まで行って送り出る冷たい水と戯れ、存分に飲んだ。

16:00 。全員が山頂から帰って来た。
早速一女がポンチョ(雨具)を抱いて、さき程まで私が植物や蝶を観察していた雪倉岳側の高山植物の真っ只中へ入って用を足した。
折悪しくか、運悪くか、夕イミングよくか、小蓮華山の下の方から稜線上にクリーム色のユニホームを着た植物監視のパトロール隊員二人がやって来たのが見えた。
用足しをし、すっかり身軽るになり爽やかな顔つきで戻って来た一女が忽ち捕捉された。
私の方は六、七百米も離れた雪渓上にいるので詳しい内容は解らないが三十分余りにもわたって相当油を絞られていたようだ。
ようやく開放されて隊列が帰って来たが壁易したR顧問の愚痴を聞いてやらねばならない破目になる。

何しろ来る途中、「高山植物を採ったり、高山蝶を捕ると十万円以下の罰金に処せられる。」という看板が二・三枚あり、三国境のザックデポ地点にも麗々しく立っていた。
遠くにニホンカモシカの姿を見る。

16:30 分。越中側へ足を踏み入れる。
鉢ケ岳は右へ巻いてだらだらの下りだ。広い尾根道は気分爽快である。鉢ケ岳の北側斜面は大きい雪渓があり、ガスで見えなくなってしまった。併し豊富な高山植物が惜し気もなく咲き乱れている。フウロウソウ、イワギキョウ、アズマギク、チングルマ、シラネニンジン、と忽ち二十数種は数えられる。

鉢ケ岳巻き道7:40 分着。
 17:55分出発。大分行動が鈍化している。

雪倉岳避難小屋着、 18:35 分。前の広場で早速幕営。
水が少ないので鉢ケ岳の雪渓まで山谷、須戸と大ポリを持って戻る。

八月三日
同小屋発は 7:45 になってしまった。
二千五百米の朝はまだ寒い、それでも植物の観察に周囲の散策に出掛けた。丁度二人の女子大生にでっくわし、やはりノートをもって植物のチェックをしていたので種類を聞くと昨日から大雪渓を登ってきて五十種をリストアップできたという。
私がその朝、小屋付近の種類を書き出しただけでも三十二種あった。何しろ高山植物図鑑作製の最も基本とされたフィールドが白馬岳連峰なのだから、高山植物五百種の90%以上は存在するはずである

雪倉岳は朝の冷気をついて一気に踏破する。
8:55 分。雪倉岳山頂。
登山者が多くなった。行く手左側にはくっきりと青と白のコントラストも鮮やかな立山連峰。ふりかえると昨日山頂を極めた白馬岳の山頂が独特の形をしたシルエットが浮かび上がっている。
これからは下ったり登ったりの尾根が続く。この辺りから一人の大学生(メンバーの一人の息子 〉 をガイドにした日本のオバサン連五、六人と道ずれになる。
年令は四十歳から五十才歳位で、大学生はガイド兼、いざと云うときのボッカというところか?
なかなか屈託のないオバタリヤン族で、「日本の政治」から「今どきの若い者は・・・ 。」までいろいろな話が出て結構話が弾み、退屈な水平道も飽きないで済んだ。
よき日本のお母ちゃん達であった。

11:30分小桜ケ原着。昼食とする。
赤男山は巻き道の水平道(全然水平ではなかった)を通ったので直接登らず通過してしまった。
ここを廻り込んで二時間もすれば朝日岳だろうとたかをくくっていたらとんでもない、休憩を多くとったことも事実であるが、なんと朝日小屋へ着いたのは16:30 分であった。
小屋の前には既にオバチャン達が到着に及んでいてビールで乾盃し話の花を咲かせていた。
そして感激した事には新しい缶ビールまで用意し席まで開けて東高顧問を待っていてくれたのだ。
こんな山旅なら何度あっても嬉しい。
三男は超スピードで明るいうちに朝日岳を往復した。

タ方薄暮の頃、隣のテントの前橋工業高の顧問がウイスキーとスルメをもって遊びに来た。
本意はヒマラヤへ行って来たのを自慢しに来たのかもしれない。翌朝暗いうちに朝日岳を往復しようと二女三女と約束して寝る。
ところがである午前二時になって隣のテントが何やら騒 々 しくなった。隣は夕方駄弁って帰った、前橋工業のテントである。どうも顧問が生徒を叱っているような声だ。
聞き耳を立てる。「なんだ?心臓が痛い?それはだな、お前が心臓のある左側を下にして寝たからだよ。バカだな、反対にして寝ろよ。」と云っている。
思わず私もこれを聞いてもぞもぞと寝返りを打とうとしたら、同時にR、M顧問も衣擦れの音をさせながら寝返りを打っている。

翌朝三人、起き出すや否や大笑いであった。「本当に左側を下にして寝ると心臓が痛くなるんだろうか?」と。
でも三人共無言のうちに寝返りを打っているのを互いに確認し合っていた訳だ。それにしても夢の中の誘導というものは恐るべき効果をもつものだと痛感する。

3:30 分。電燈をつけながら朝日岳に向かう。
四十分で登頂。次第に夜の闇がうすれ朝日がさし込んでくる。明けだ!
御来光が雲海に広がり美しい。下りは三十分で小屋前へ。下る途中例の前橋工業パーティーとすれ違ったが顧問の前に卒業生、そして前にいる生徒は今にもぶっ倒れそうな烈しい息づかいをしていた。
何とも
なければよいがと心配していたが、案の定後で北又小屋へ着いてから知ったのだが、途中で心臓麻庫を起こし予定を変更して救助隊を要請しこちらの我々が通った道へ下っているということを知った。

7:00 、朝日小屋出発。
東高山岳部はぶっ倒れるような事はしない。常に臨機応変どんな危急にも対応できるし、一人一人を大切にする。その証拠に捻挫しためぐちゃんはM顧問が丁寧にテーピングしてくれた。

7:38 分、タ日ケ原着。
朝日岳の西側だから夕日なのだろうか。もう登りはないのだと思ってみんなうきうきしている。

9:01 分。イブリ山頂、休まないで通過。

9:30 分。小林トイレへ。全員は下るが私だけ彼を待つ。約三十分も待った。

11:30 分。三合目手前。小休止。

12:30 分。北又小屋着。
最後の五十段の石段がきつかった。カレーを食べ始めたらマイクロバスとハイヤーが来た。
食器を持ったまま乗車。カレーを花に食わしたものもいた。

14:00 分。小川温泉着。
幕営。奇麗なミヤマカラスアゲハが舞っていた。
露天風呂最高!

おりひめ第25号より転載
本当に先生のお人柄が偲ばれる山行記録です・・・
 


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